前田耕平 KOHEI MAEDA

イトム

イトム

2018.11.09

トラックの荷台に一人で乗り込んだ時のことだ。

高さ2 m、縦横3m×2mの箱型の荷台は走行中、自動的に消灯する仕組みだったため、30分ほど暗い箱の中に閉じ込められた。雨の侵入を防ぐため荷台には空気孔や小窓が見あたらず、わずかな光の差し込みさえ許さない暗闇だったが、暑さが心配なだけで、暗所に不安はなかった。

携帯電話でライトをつけたらよかったが、なぜだか少しの怖さと一緒に暗闇を耐えて見ようと思った。

こういうときは、目が慣れてくるのを少し待てばいい。しばらくして目を大きく見開いたりしたが、目の前には何も見えなかった。見えた(?)と思えたのは、さっきまで見ていた光の残像か、内視現象における蛍光色の虫のようなものだった。


レジデンスでタイに行ったとき、サッカーチームの少年とコーチの計13人が、チェンライの洞窟に9日間閉じ込められた話を聞いた。

地元サッカーチーム「ムーパ(野生のイノシシ)」の子供達は、普段から遊び場として洞窟に入っていた。

現地ではこの洞窟がある山の形が女性の寝姿に似ており、洞窟の位置は胎内に当たるらしい。

一説ではこの女性はナンノーン(タイの神話上の姫)だとされている。この洞窟は死んだナンノーンの精霊が何百年も宿り続けているのだとか。

サッカーチームを率いる元僧侶のコーチは子供たちの精神修行を兼ねて洞窟に入ったらしい。


しかしその日は大雨で洞窟内の水かさが増し、引き返せなくなった彼らは、奥に進むしかなくなったのだ。

逃げ込んだ場所は洞窟の入り口から約5キロ離れた地点だった。

懐中電灯が切れ、少年とコーチは本当の暗闇を体験することになった。水や食料はなく、洞窟の天井から垂れる水を飲み、乾きを凌いだという。

洞窟の外では精霊にお詫びの祈りを捧げる儀式が連日連夜おこなわれていた。

そして後に少年とコーチは無事に救助された。

洞窟の闇の中、普段太陽の下で生きる人間は真っ先に昼夜の存在を失ってしまう。

やがて時間の感覚がなくなり、不安や孤独に襲われていくだろう。暗闇で頼りになるのは皮膚から伝わる身体感覚だ。

感触と記憶を頼りに、自分の周囲を確かめていく。

しかし、脳で覚えている物体の形や色などは日の経過と共に曖昧になり、触れているものの存在は不明瞭になる。

これは同じ文字をしばらく眺めていると、その文字自体の構造がわからなくなるゲシュタルト崩壊と似ている。

この現象が恐ろしいのは、自分の存在も見失ってしまうところだ。洞窟の闇の中では、触れている自分の体でさえ、不確かになってしまうだろう。

しかし少年達とコーチは祈りに近い身体感覚で”それ”を自分自身として顕在化させたのだ。












撮影:麥生田兵吾 Mugyuda Hyogo

画像提供:ギャラリー・パルク Gallery PARC